遠くで銃を撃ち合う音が聞こえ、
暫くすると辺りはシンと静まり返った。
どちらの国が勝ったなんてわからないが、
確実に言えるのは、また人が死んだということだ。
ここは戦場だ。
私の所属していた第2小隊は、
敵の銃弾に引き裂かれてばらばらに散ってしまった。
生き残っているのは数名か。
もしかしたら私だけなのかも知れない。
もう無線も通じない、誰かが助けにくる望みも少ないだろう。
私自身も、いったい何人の敵国の兵を殺してしまったのだろうか。
私が生きていること自体、許されることなのだろうか。
懐に忍ばせた煙草とマッチを取り出した。
「最後の一本か」
そう呟いて、マッチをこすりつけ、最後の一本に火をつけた。
ふぅっと煙をはく、この煙草が消えれば、私も死ぬのか。
そう思わざるを得ない、なんとも言えぬ脱力感に襲われる。
ぼんやりとそんなことを考えていた時、
しまった!
と、身体を固くした。
いつの間にか目の前には銃を構えた敵国の兵士が、
私をジッと見つめているのだ。
そして静かに近寄ってくる。
私は微塵も動くことが許されなかった。
敵国の兵士が私の2mの距離で足を止め、静かに口を開いた。
「煙が昇っているのが見えた」
しまった、煙草の煙が目印となってしまったのか。
私は死を覚悟した。
煙草は静かに、悠然と、死の狼煙を上げ続けている。
だが私は、敵国の兵士の次の言葉に驚いた。
「一口、くれないか」
私は静かに立ち上がって、煙草を差し出す。
敵国の兵士はすぅっ煙草を咥えると、
ゆっくりと深く吸い込み、そして吐き出した。
「うまいな」
その言葉に私は、
「ああ」
と頷いた。
そうして二人、何を言うことなく、
静かにその場に座り込んだ。
「戦況はどうなんだろうな」
私は問いかけてみた。
「わからない。
俺達のような、鉄砲玉みたいな者には必要のない情報だろう」
「お前は何人くらい殺った?」
「30人か、100人か、知ったことか。
お前は?」
「私もそんなものだろう」
なんだ、どこの国でも一緒か。
一口ずつ順番に吸っていた煙草は随分と短くなっていた。
「この煙草が燃え尽きたら、私達はまた敵同士か」
私が思わず口走ってしまった言葉に、
敵国の兵士はピクリを肩を動かしてから、私を見つめた。
しまった、言ってはいけないことを言ってしまったのか。
すると敵国の兵士の顔が少しほころんだように見え、口を開いた。
「そうだな」
私は短くなった煙草を、そっと石の上において立ち上がった。
それを見た兵士も、静かに立ち上がった。
「おいしかった、ありがとう」
そう言って兵士は地面に置いていた銃を手に取った。
「次に会う時は、笑顔で会えるといいな」
私もそう言い残して、置いていた銃を手に取り、背中を向けた。
一歩。
敵国の兵士から離れていく。
二歩。
敵国の兵士も同じように、私とは逆方向に歩みを進めた。
三歩。
私は振り返り、敵国の兵士に銃を構えた。
敵国の兵士も同様に、銃を構え私を睨みつけている。
その睨みあいの中心、今にも燃え尽きそうな煙草から、
一筋の白い煙が立ち昇っている。
撃てばどちらかが確実に死ぬ。
いや、二人とも、死ぬ。
覚悟はある。
でも、どうしても、引き金を引くだけの力が入らなかった。
撃てない。
いや、撃ちたくない。
私はそっと、銃を下ろした。
兵士も同様だった。
一歩、二歩、お互いの距離が縮まっていく。
三歩。
そうして、固く、握手をした。
平和を願う気持ちは、どこの国でも変わらない。
煙草はとうとう燃え尽きた。
その最後の煙が空に溶け込むのを、二人はずっと見上げていた。
そうしてここに、小さな二つの人間から、
希望という名の小さな狼煙が上げられた。
以上、第73回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。
次回、サブイボってかわいいよね? ねっ?!(未定)