第63話 【ショートショート】消えてしまいたい

「愛してるよ」

「嬉しいわ、私もよ」

綺麗にライトアップされた橋の見える公園で、男と女が囁きあう。

 

 

 

 

 

だがその甘い囁きを、偶然通りかかった酔っ払いが耳にしてしまった。

その瞬間、酔っ払いは持っていた一升瓶で男を殴った。

倒れた男の後頭部からドス黒い血が流れ出しているのを目にした女は、

「誰か、助けて~」

と叫ぶと、上空から円盤型の物体から光が酔っ払いを照らした。

酔っ払いはみるみるうちに上空に舞い上がり、円盤の中に吸い込まれると、

何事もなかったように去っていった。

呆然とする、残された女。

 

 

私はそのようなやり取りの一部始終を公園の木の陰に隠れて見ていたのだ。

早速持っていた外星語辞典を開いて、すぐに納得した。

「愛してる」という言葉は、ザーマ星では「殴ってほしい」と訳されるらしい。

「誰か、助けて」は、ホーラ星で「この人を、連れ去って」という訳であった。

地球がザーマ星やホーラ星をはじめ、全18の星と宇宙協定を結んで数ヶ月が経つのだが、

地球へと旅行に来た星々の連中は、まだ言語の違いについて意識していないようなのだ。

「なんということだ……」

私が溜息を言葉にした途端、背中にぞくりを悪寒が走った。

振り向くと、ナタに似た刃物を持ったトスラ星の青年がニヤリと私を見下ろしていた。

「なんということだ」という言葉は、トスラ星では……

 

 

 

以上、第63回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。

次回、ミニストップのハロハロ食っべたっいな~(未定)

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