第62話 君の瞳は百万ボルト

アイコンタクトって、とても重要なことだよね。

言葉なんてなくても人と人との心が通じ合う、

なんとも言えない安心感が生まれてくる、そうは思わないか。

 

 

 

 

 

最寄駅を降りて帰路につく、いつもの日常だ。

商店街を一人、「人生何一つ良いことなどないんだ」と歩いていると、

猛ダッシュをキメて向かってくる少年がいたんだ。

年の頃は6つといったところか、とりあえず、猛のつくダッシュだ。

何かに追われているのだろうか?

少年の後ろには鬼(母親)もゾンビ(父親)もいない様子。

もしいたのならば、その少年はきっとシックスセンスの持ち主なのだろう。

 

 

ぃゃぃゃ。

そんな事を考えている暇など本気と書いてマジでない。

今まさに、猪突猛進に向かってくる小さな闘牛を目の前にしているのだ。

どうしたものか、マッソーは少年の顔を見た。

すると妙な事に、少年もマッソーの顔を見ているのだ。

知り合いか? いや、違う。

もちろんマッソーの隠し子でもない。

だから、そんな事を考える余裕などは皆無なのだ。

少年とマッソーの距離がみるみるつまっていく。

 

 

3、2、1……ぶつかるっ!

 

 

その瞬間であった。

少年の目を見ていたマッソーは、

ふぃっと右方向に黒目を移動させると同時に少しだけ体を左に開いた。

少年はその開いたマッソーの体の動きに合わせるように、

マッソーの右方向に飛びのいたのだ。

電撃が走ったね、ピリピリと。

あまりに一瞬の出来事だった。

思わずマッソーは少年を振り返った。

すると、少年も、マッソーを振り返っているんだ。

そして少年は、ふっと笑って、また走り去っていった。

なんという気持ちの良い瞬間なんだろう。

そんな少年の後ろ姿を見てマッソーは、小さく右手の親指を立てて、

そして、小さく呟いたんだ。

グッド ボーイ (#^-^)b」と。

 

 

 

 

 

あれはマッソーが二十歳そこそこだったろうか。

マッソーがマッソーの事をマッソーと自覚し始めて、

自分の事をマッソーと呼び始めた、そんな頃の話である。

ある日、彼女という存在を連れて、初めて頭皮の店にいったんだ。

電波少年のようにアポなしで。

あぁ、そぅそぅ、知らない人の為に、

「頭皮」の説明をしておかなければなるまい。

 

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★「頭皮」とは
1)スキンヘッドを決め込む料理人である
※よってこの店で「髪の毛入ってんぞ、ゴラァ!」
等という世迷言は通用しない
2)趣味は野球で少年野球のコーチをしている
3)マッソーの実の父親である

上記より当ブログではあくまでも愛着を込めて、
実父を「頭皮」と呼称することにする。
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いや~、びっくらこいてたね、あの頭皮が目玉ひん剥いてた。

頭皮は嬉しさからか、常連客にこう言ってまわった。

うちの息子が初めて彼女を連れてきた」なんてね。

こんな嬉しそうな頭皮の顔は正直見た事ない。

酒で気持ちが良くなったのか、頭皮の頭皮がみるみるうちに

朱色に染まったんだ。

「ほんと、ゆでだこだね、まいっちゃうよね」

そんな事を当時の彼女に言ったっけ、あはははは。

 

 

その一年後、頭皮の店。

マッソーの隣には、違う彼女がいた。

一つの恋に終止符がうたれ、そして新たな恋が花開いた、そういう結果だ。

まったくもって、自然の摂理である。

今度はどんな顔するかな、マッソーはニヒルに笑いつつ店に向かった。

だがここで、嫌な予感がマッソーの頭をよぎったんだ。

頭皮の野郎は、この上ないくらい、調子に乗る。

しかも酒でも入ってようものなら、修羅のごとく新しい彼女に食ってかかるだろう。

「なんだ~違う彼女連れちゃって~」位のマッソー批判ならまだ許せる。

油断したら、前の方がパイ乙デカイ、とか平気で言ってしまうかもしれないのだ。

そうったらまさしく修羅場だ。

ほんのりと手の平が水気を帯びる、そんな緊張の瞬間である。

ガラガラ、店の扉を開ける。

 

 

 

 

頭皮と目が合う。

「なんだ?お前が店にくるなんて」と言いたげだ。

すぐに、マッソーの後ろの彼女の存在に気付いたのか、

いらっしゃ~い」と桂三枝の様に高らかに声を上げた。

こいつ、やはり油断はできない、確かにそう思った。

酒の宴が始まって、次第に頭皮の頭皮が紅色に染まった頃、

頭皮は一言、感慨無量といった感じでこう言い放った。

 

うちの息子が 初めて 彼女を連れてきた」と。

 

マッソーはビックリして、頭皮の目を見つめると、

頭皮もマッソーを見て、ニヤリと笑った。

こいつ…わかってるじゃねぇか、食えるやつじゃねぇか。

生まれてからずっと、頭皮批判しかしてなかったように思う。

それも、この日までの話だ。

初めて頭皮と、心が通じ合い、アイコンタクトが決まった瞬間だった。

感無量である。

今なら言える、「グッ ジョブ (#^-^)b」と。

 

なんだかちょっぴり嬉しくなって、店を出ようとした瞬間だった。

頭皮がマッソーを手招きして、耳元でこう言ったんだ。

前の方がおれの好みだったなぁ

……聞いてない、テカ、うざい

だから、お代はツケにしてやった。

戻る事のないツケだろう。

頭皮もきっとそう思っているに違いない。

 

 

 

 

心が通じ合う瞬間、その瞳と瞳でコンタクトするその瞬間、

言葉などなくても瞳と瞳の間に流れる電撃が、

体の芯を食ってビリリと心地の良い痺れが全身を満たす。

それが、アイコンタクト

忘れていたその感触をくすぐってくれた少年に感謝したい。

ふと、頭の中にこんなフレーズが浮かんだ。

♪君の瞳は百万ボルト 地上におりた最後の天使

そして今日、この歌詞が実は「10,000ボルト」だったのだと知ったことが、

マッソーにとって何よりも衝撃だった。。。

 

 

以上、第62回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。

次回、「熱いね、例年以上に……」(未定)

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