第77話 無言の暴力

甚だ遺憾である。

真冬の凍るような寒さの中、

背筋を丸めた子猫をまるで奈落に突き落としたような、

ほんに悲しき物語である。

 

 

 

 

第77回というなんだかラッキーそうな項番にも関わらず、

こんな話をしなければならないのは私だって辛い。

でも、伝えなければならない義務もある、わかって欲しい。

 

ある日、時刻は正午手前、友人とマッソーは電車を待っていた。

20代中盤と30代後半の、立派なおじさんずである。

20代をおじさんと呼ぶのは早い、そういった意見もあると思います。

だけどマッソーは、自分が成人した際に、

「二十歳を超えたら皆おじさんだ、脳に新たな皺が刻まれることなどない、

むしろつるつるな脳になるだけだからな、頭皮と同じように……」

と悲しく自分に言い聞かせ、一人称を『おじさん』に変えた。

 

 

JRの構内に新しめの自動販売機があるじゃないですか。

調べたら「次世代自販機」っていうやつらしい。

次世代自販機はかなりの優れもので、

「お客さまの年代や性別に応じて、お客さまに合った商品をお勧めします」

とacureさんが言っている通り、客によって商品をお薦めしてくるのです。

どうやら、
・性別(2パターン)
・年代(7パターン)
・時間帯(6パターン)
・気温(9パターン)

の四要素を総合して薦めてくるというお利口さん。

ここまでくれば「今夜もプロテイン」のハードユーザ様には

既にオチは見えていることでしょう。

裏切りません、その通りのオチでした。

 

 

 

30代のマッソーが次世代自販機の前に立つと、

あなたへのおすすめ商品は、「ふかひれスープ」「しじみ汁」。

そういうものかと20代の友人を次世代自販機の前に立たせてみると、

あなたへのおすすめ商品は、「HOTコーヒー」「Red Bull」。

 

いやいやぃゃぃゃ……

 

おじさんも30代、しかも後半にしては頑張っていると自負しています。

ちょっとお話したことがある人たちからは、

「全然見えないですよー、20代後半くらいかと思いましたー」

という世迷言のようなおべんちゃらを頂戴しているのです。

これは間違いに違いない。

そうだ、表情に笑みがなかったせいなのだろう。

私は一世一代の勇気を振り絞って、そして満面の笑みで以て、

もう一度次世代販売機と対峙することに致しました。

 

 

あなたへのおすすめ、「ふかひれスープ」「信州そば茶」。

 

これは無言なる暴力である。

人間に対する機械の暴力なのである。

20代にはRed Bullでも飲んで午後もウェイウェイやりなさいという。

30代はというと、これでもかというくらいにふかひれを摂れという。

 

誠意って何かね

 

なぜ笑顔になると、しじみ汁がそば茶に変わるのかね。

お酒で疲れたという表情から、目尻の皺が集中した好々爺に変化したのかね。

まったく以て、遺憾である

 

以上、第77回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。

次回、実は今朝もふかひれを薦められましたネッ♡(未定)

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