近、お母さんが犬のチロの散歩をするようになった。
お母さんがチロの散歩をするようになって三日目、お母さんはチロの癖に気付いて、チロを叱った。
チロは花を見つけると噛み千切ってしまうのだ。
次の日も、その次の日も、チロは花を噛むことを止めなかった。
ある日の散歩道、チロは花を噛み、そして突然走り出した。
あまりに咄嗟の事だったので、お母さんの手から紐がこぼれ落ちてしまった。
お母さんはチロが公園の塀の裏に逃げ込んだのを見つけると、静かに塀の裏を覗いた。
チロは小さなダンボール箱の上に花を置いて、ハァハァと息を弾ませていた。
お母さんは紐を拾い上げ、「行くよ」と呟いて紐を引っ張ったけれど、チロはその場を動かなかった。
お母さんは少し迷った表情を見せた後、チロの鼻の先にある小さなダンボールを開けた。
小さなダンボールの中には、チロが咥えてきたような花が、びっしりと敷き詰められている。
でも、摘んだ日から時間が経っていた為か、花は萎れてしまっていた。
中には花以外に、一枚の紙が入っている。
『お母さん お誕生日おめでとう 拓也』
お母さんは僕の名前を何度も呼んで、その場にうずくまってしまった。
チロはダンボールの中をクンクンと匂いを嗅ぐと、顔を上げて、僕を見つけてくれたんだね。
ありがとう、チロ。
お母さんに、お誕生日プレゼント、わたせたよ。
ありがとう、お母さん。
僕を生んでくれて。
ばいばい、チロ、さようなら、お母さん。
以上、第53回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。
次回、さむいさむい、むいむいさー……(未定)