第53話 匂い

近、お母さんが犬のチロの散歩をするようになった。

お母さんがチロの散歩をするようになって三日目、お母さんはチロの癖に気付いて、チロを叱った。

チロは花を見つけると噛み千切ってしまうのだ。

 

 

 

 

次の日も、その次の日も、チロは花を噛むことを止めなかった。

ある日の散歩道、チロは花を噛み、そして突然走り出した。

あまりに咄嗟の事だったので、お母さんの手から紐がこぼれ落ちてしまった。

お母さんはチロが公園の塀の裏に逃げ込んだのを見つけると、静かに塀の裏を覗いた。

チロは小さなダンボール箱の上に花を置いて、ハァハァと息を弾ませていた。

お母さんは紐を拾い上げ、「行くよ」と呟いて紐を引っ張ったけれど、チロはその場を動かなかった。

お母さんは少し迷った表情を見せた後、チロの鼻の先にある小さなダンボールを開けた。

小さなダンボールの中には、チロが咥えてきたような花が、びっしりと敷き詰められている。

でも、摘んだ日から時間が経っていた為か、花は萎れてしまっていた。

中には花以外に、一枚の紙が入っている。

 

 
『お母さん お誕生日おめでとう 拓也』

 

 
お母さんは僕の名前を何度も呼んで、その場にうずくまってしまった。

チロはダンボールの中をクンクンと匂いを嗅ぐと、顔を上げて、僕を見つけてくれたんだね。

 

 

 

ありがとう、チロ。

お母さんに、お誕生日プレゼント、わたせたよ。

ありがとう、お母さん。

僕を生んでくれて。

ばいばい、チロ、さようなら、お母さん。

 

 

 

以上、第53回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。

次回、さむいさむい、むいむいさー……(未定)

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