第2話 祈り

貴方は、

祈りますか?

祈りませんか?

 

信仰深い宗教を重んじている人であれば、宗派により時と場所の差はあれど、

当たり前のように神に祈りを捧げていることでしょう。

日本にも、神頼みやてるてる坊主、御百度参りといった風習が残っていますし、

わら人形に捧げているのも「呪い」という名の「祈り」なのかも知れません。

 

マッソーはね……

 

ここで、ある少年の話をしたいと思う。

年の頃は、第2次成長期を迎える、思春期真っ只中のお年頃。

あの日は、とても風の強い日でありました。

突風が草木を揺らし、校庭に砂埃が舞い、

広げられたトンビの翼が上昇気流を捉えてふわりと高度を上げる。

舞い上がったトンビの影が太陽に重なり、まるで太陽に刻まれた紋章のように感じて、

その紋章を掴むように両手を空に伸ばして、その紋章を掴みとることができたなら、

僕はきっと誰にも負けない勇者になれるんだと信じていた。

そぉう!

少年は病気でした、うんそうだね、中二病だねっ

そして少年は祈りました。

神の存在など微塵とも感じたことがない少年は、

これ以上ないほど純粋な気持ちをもって祈ったのです。
よ吹け、吹け……
そして……

 

 

めくれろ……

 

めくれろ。

 

めくれろっ!

 

 

だがその風は、地上の生ける全ての存在を空へ誘うほどの強く非情な突風は、

たった一枚の布きれすらめくらせてはくれなかったのです。

少年は思いました。

この世に神など、存在しないのだと

祈りなぞは所詮、影も形も確証も、何もないものなんだ。

そんな非科学的なことにうつつを抜かすよりも、

自分の筋肉を信じる方がよっぽどマシなんだ。

筋肉は嘘をつかないからね☆

少年はその日以来、、祈ることを止めてしまったのです。

生まれながらにして捻くれ者であった少年の心はさらに荒み、

捻くれ捻くれ、クルクルと1周してしまうほどでした。
時は経ち、少年は、青年となりました。

電車を利用する機会も多くなり、それに伴って広がる風景に食されることなく、

青年の心は荒んだままだったのです。

駅の階段を上るその眼前に短いスカートの女子高生がいたとしても、

神なぞ存在しない、いやむしろ、偶然にも目の前に輝かしい風景が広がったとしても、

どうせその時は変態扱いされ、地獄に突き落とされる、むしろ悪魔がいるのではと、

伏し目がちに、チラ、と視線を送るくらい荒みまくっていたのです。

階段を登り切り、やはり神なぞはいなかったのだと再認識した、

その時だった。

PHSが女子高生の手からこぼれ落ち、ガチャをいう音が辺りに響いた。

固い地面を滑るPHS。

このままではプラットホームからその身を投げてしまう。

青年の体が自然と沈む。

手を伸ばし、無機質な物体を、掴んだ。

僕が掴み取りたいのはこんなに固いものじゃないのに

と荒んだ青年は思ったのだ。

それとは対照的に、女子高生は泣き笑いのような顔で青年に近づき、言ったのです。
「ありがとうございました。

 本当に本当に、ありがとうございました!」
青年は何も反応することができなくなり、固まった表情のまま、PHSを女子高生に返した。

電車が来るまでのしばしの間、青年は雲の無い空をただぼうっと眺めていた。

電車に乗り込む二人の影。

だが、空の青とは対照的に、未だ青年の心は晴れない。

僕の心は荒んでいて、捻くれていて、変なことばかりを考えていながら、

ただ視界に入った無機質でどうでもいいものを手にしただけなのに、

お礼など、必要ないのに、どうして彼女はそのような態度なのだろうか。

曇った青年の心に、一点の光が射した。

青年は考えたのだ、彼女の気持ちを。

そして気づいたのだ。

彼女は、その手からPHSが離れた瞬間に考えたのだ、しまった、と。

PHSが駅から滑り落ちそうになった時、きっとこう思ったに違いない、

お願い、落ちないで、誰か拾って、と。

それは誰に捧げるでもない純粋な、祈り、だったのだと。

青年はハッと顔を上げると、女子高生は電車から降りる直前であった。

女子高生は青年にチラと視線を向けると、青年に一礼して、降車した。

動き出す電車、青年は黒目で彼女を追ったが、すぐにそれは風景に溶けた。

青年も彼女に伝えたかったのだ、有難う、と。

祈りは、ことに純粋すぎるほど真っ直ぐな思いが誰かに届いた時に、

感謝へとつながるものなんだということを、青年は彼女に教わったからだ。

邪な気持ちなど存在しない、ピュアな祈りは、感謝へとつながるんだ。

捻くれ捻くれ捻くれまくった心は、巻きつけられたゴムのように勢いよく戻り、

再度グルグルと巻きつけられ、また戻りを繰り返して、

ようやく少年の日に、風に祈った純粋(邪粋)な気持ちを取り戻すことに成功した。

青年はその日から、少年時代より凍結されていた「祈る」ことを解除した。

 

 

……

 

 

えっ? マッソー?

マッソーが信じているのは神ではありません、筋肉です。

筋肉は嘘をつかないからね☆(2回目)

ほら、見て、この僧帽筋を、上腕二頭筋を!

私のモストマスキュラーを!!

 

なんて、モストマスキュラーしながら、

その手をバレないようにそっと両の掌を合わせて、

今日もそっと祈りを捧げているのです。

 

 

以上、第二回マッソー斎藤の今夜もプロテインでした。

次回、宙を飛ぶサイドチェスト!(未定)